潜水艦7号

我々が『言えなかった言葉』
人は、どれだけの負荷を己に課せば「自分は生きている」と実感するのだろうか。 そこに、普遍的な模範解答は存在しない事でしょう。 ある人は、まるで海底に潜む貝の如くじっとしているだけでも充分な『生きる実感』を得るかも知れません。またある人は料理人として最高の料理を目指して奮闘することで足元に地面を感じるのかも知れません。 ならば、その極限を極めればどうなるのか。 本作の『父親』にして、そのモデルとなった故・中村医師は自分の人生を貧困地域の医療に捧げます。 それが過酷な世界であるのは、容易に想像が付くというものです。 違う国、違う宗教、違う価値観、違う食事に違う水。日本では当たり前に出来る生活のすべてが『当たり前ではない』世界。加えて充分ではないであろう医療体制……。ありとあらゆる障害が、『貧しい人を助けたい』と願う自分の夢に足枷を掛けてくる。 そう、テロでさえも。 『父親』はその生き方を進むために、実に多くのものを犠牲にしてしまいます。最も大切にすべき、家族との絆でさえも。 日本の家に居てじっと父親の帰宅の待ち望む主人公のみならず、その父親も別れて暮らす寂しさの犠牲に堪えていました。 それだけのリスクを背負い、それでも『それ』をする事を、己の魂が求めてしまう。そんな強く、気高い人生。 『父親』が成した成果はあまりに偉大で、その恩恵は計り知れません。では、その本人は?その家族は?彼らにはそれらの犠牲や成果に相当するバックは得られたのでしょうか?その答えが『理不尽な暴力』だったのか。 それは、あまりに辛すぎる現実でした。 しかし『父親』の残した遺志は、その尊い犠牲によって次の世代へと引き継がれていきます。 或いは、それこそが『父親』の残した最大の成果であり報酬と言えるのではないでしょうか。 「ありがとうございました。後は我々が引き継ぎます」 アフガニスタンで亡くなれた中村医師に、それは後に残された我々全員が『言えなかった言葉』だったのではないかと。 深く考えさせられる作品でした。
1件・2件
潜水艦7号さん 心のこもったレビュー! ありがとうございます。 このレビューも多くの人に読んで貰いたいと思うほど、素晴らしい内容です。 レビューを読んで、涙が出るなんて、初めての経験でした。 本当にありがとうございます。 最大級の感謝を込めて!! みぐ
1件1件
あざ―――す!(><;) お褒めいただき、光栄です!
1件

/1ページ

1件