にゃんデッド

サクッと読める世紀末系SF。 文章や設定・伏線もしっかりしています。特に高いのは構成力と演出力。読者に与える情報に過不足が無く、しっかりと読み手の興味を掴みながらストーリーを進めて行く手腕は見事だと思いました。精神病についてもしっかりと勉強されており、一緒に暮らす猫の存在や、こんな世界に花を植えたいなんて考える主人公の思考は孤独感と切なさを強く演出し、だからこそ、この救いの無い世界に現れたヒロインの存在もひときわ輝いて見えるのでしょう。深まる世界の謎と人物の抱える過去にも期待が膨らみます。作者様の思考能力の高さが窺える一作です。 私が気になったのは文章と描写です。 文章について、私が抱いた印象は良く言えば読みやすい、悪く言えば特徴が無い、素っ気ないという感じです。日本語のリズムの良さや展開の速さで補われてはいますが、地の文が基本的に事実の羅列、説明に終始しており、私の読んだ限り、比喩表現と呼べるものがほぼ見当たりませんでした。描写についてはこれに関連して、主人公の主観性が薄い点が気になりました。主人公が何を見たのかは描かれているのですが、それがどう見えたか、どう感じたかが伝わって来ないのです。軽い気持ちで楽しみたい読者にはこれでも十分ですが、少しでも目の肥えた読者になると、もう一つ物足りないでしょう。 比喩表現とは作者の個性の一部であり、物事の様子を詳細に読者へ伝えるための重要な手法であり、一人称で語る小説の場合、主人公の人格や見ている世界を演出する強力な手立てにもなります。例えばp15、ヒロインの印象を『儚い』と一言で語るのは誰でもできますが、それがどのように儚いのか、どの程度儚いのかを作者様らしく語るには説明ではなく比喩表現が必要です。『触れたら溶けてしまいそうな雪花のように』とすれば灰色の街を踏まえた上で今にも消え入りそうな所在無さが演出できますし、『踏まれてしまったすずらんの花のように』とすれば花を愛する主人公らしさが醸し出せます。要所要所で読者の心を揺さぶる比喩表現を使えるようになれば高い演出力に一層磨きがかかり、本当の意味で読みやすい文章になるでしょう。 あと、細かい所で誤字脱字や、おや、と思う日本語もあったので、繰り返し読み直して校正されると良いかと思います。 総評としては、気軽に読める面白い作品。世界の謎がこれからどう明かされるのか、楽しみにしています。

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