たすう存在

アリはゾウの全体を理解できない。 アリに認識できるのはぜいぜが、巨大すぎる存在の皮膚の一部や太陽が巨体に遮られることによってできる影の暗さ。 それから踏みつぶされる際の刹那の圧力。 ならば、この作品で描かれる巨大なスケールの事象を登場人物は、そして私たち読者は理解することができるのか? 答えはイエス、であると思いたい。 人間はアリではない。 人間には想像力がある。 断片を繋ぎ合わせて計算し、推測し、妄想する能力がある。 と、まあ、カッコつけて持って回った文章を書きましたが、続かないので以下はフツーの文章で(笑) 地球規模での災厄、あるいは陰謀を描こうと思うと僕などはついつい災厄そのものを描写しようとしてチープになってしまいそうなのですが、この【--MOTHER--】で作者さまは、断片をばら撒くという大変クレバーな手法を選ばれているようです。 その断片も、一章では政経・社会情勢、現在更新中の二章ではバイオ技術、と地に足の着いた(そして描くには難易度の高い)内容をチョイスしており、リアリティを保ちながらも想像力と恐怖を掻き立ててくれます。 この辺りの手腕と見識はさすがと言わざるを得ません。 ごくごく個人的な印象では、アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」で描かれた地球規模の転換期を彷彿する事象でありながら、登場人物の(そして読者の)目線はあくまでも地表からせいぜい少し浮いた位置で留まらせられており、それがゾウの巨大さに怯えながらもその全体を確かめたいと願うアリのように読者を作品世界に惹きつけます。 果たしてこの先どんなピースがばら撒かれるのか。 そして人類の想像力はゾウを把握できるのか。 あるいは、その先にまだ隠された真実が存在するのか。 作者さまの、ニヤリと笑ってカードを開いていく姿が見えるようです。 というわけで、更新楽しみにしております。
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