たすう存在

もしも僕がこの作品の作者だったなら、きっとカテゴリーは[ミステリー・推理]にしていたと思います。 何気ないセリフや行動に潜ませた伏線とミスディレクションがとても巧みです。 伏線はわりと親切で、空が生命ある存在でないことに早々に感付かれた読者も多かったのではないかと思いますが、大地がきっかり4時に帰ることを強調し何かの事情を抱えているのは彼の方であるように誘導したり、寿命を迎えるのはネコのクルミであるように印象付けたりとミスディレクションの方は中々に狡猾です。 欲を言えば、もしクルミに命を別ける能力があることの伏線があれば完璧だっただろうと思います。 またオノマトペの的確な使い方や、夏から冬にかけての空気感、そして空の衣装から始まり声が空に吸い込まれて消えるという詩的情緒溢れる構成などは、ものすごくセンスを感じます。 論理的な構成技術と詩的センスを併せ持つ作品というのはそう多くはありません。 その中にあって、この「猫と彼と空模様」はとても高い次元でバランスの取れた作品だと思いました。 面白かったです。 ありがとうございました。
1件

この投稿に対するコメントはありません