光姫 琥太郎

作品タイトルから「荒廃した近未来の地球で、ともに手を取り逃げる男女」をメインキャストとした緊迫感溢れるストーリーを想像していたのですが、序盤のほんわかとしたノリにいきなり肩透かしを食らわされました。 「いつ逃亡するの?」などと首を傾げながら読んでいたのも束の間、中盤辺りからストーリーは一気にその加速度を増していきます。あまりの変貌ぶりに途中から作者が変わったのではないかと錯覚するほどでした。しかもその切り替えがとても自然で、作者の力量をこれでもかとばかりに見せつけてくれます。 脇を固める登場人物たちもそれぞれみな特徴的で、強烈な個性の持ち主ばかりです。特にお気に入りなのが、金と女にしか興味がないあの情報屋ですね。ズッコケキャラかと思いきや、最後の最後に主人公たちを助けるシーンはとてもカッコよくてそのギャップに痺れました。 物語としてもとても完成度が高く、賛否両論あるであろう衝撃のラストシーンには誰もが思わず考えさせられてしまうでしょう。実際に逃亡するのではなく、あくまでメタファーとしての「逃亡」ですが、その辺りの練りに練られたシナリオ構成、言葉遊びの妙もお見事です。 そして最も記憶に残るのが、最後に主人公が言い放ったあのセリフです。あのセリフがこの物語の全てといっても決して過言ではないでしょう。読者がそこに至るまで思い描いていた世界を完全にひっくり返し、そして想像もし得なかった真実へと帰結させる。あのセリフを読んだ時、「やられた!」とつい叫んでしまいました。 文字だけの世界だからこそのトリックを駆使し(いかにも重要な伏線であるかのような4ページ目はフェイクでしたが)、読者を手玉に取る。これはもう多数存在作品の真骨頂とも言えるでしょう。 素晴らしい作品でした。 心から拍手を送ります。(★)
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鬼ですね

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