川口祐海

価値観が、揺らぎました。 読み終えてすぐ外へ出て、歩き、自分のいるこの世界を噛みしめました。 もちろん、まず最初にアスファルトの匂いを嗅ぎましたね。 それほどに感化されてしまった。 いやはや、凄い。 世界観とギャップのある軽妙なタッチ、いびつだけれど魅力的なキャラ、序盤を吹き飛ばすサスペンスフルな展開、根底に流れる不思議な情愛、そして衝撃の真実。 最後まで、目からコンタクトでした。 凄絶な過去に、ままならない現実に、深い傷を負っている二人。見えそうで見えないわずかな光(希望)を目指す、報われない逃避行。 それは退廃的な世界観とあわせて、一瞬あのP.K.ディックを彷彿とさせますが、この作品はそれだけではありません。 中でも個人的に特筆すべき点は、やはり「匂い」の表現ですね。 登場キャラたちの匂いに関する感覚のずれが、情景や心理の描写に未知なる斬新さをもたらし、かつ本作の哲学的テーマのモチーフとして絶妙に機能している。 同じ書き手として、少なからず嫉妬を覚えました。 そして── けっきょくあのズッコケ情報屋がなぜ二人を助けたのか。 二人の「逃亡」とはいったい何だったのか。 その行き着いた先、あの最後のセリフ──。 真実とはえてして、辛く儚いものです。 人類の存在価値を、〝かつて存在していた意味〟を、僕も直樹や麦子の双方の視点で思い巡らせることができました。 二人が人間ではなかったというところが、逆に良かったのかもしれません。 おそるべし──多数存在。 作者名さえもキーワードにして物語に取り込むとは── じつに恐れ入りました!m(_ _)m (★)
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