第3回ノベリスタ大賞・最終候補作品熟読レビューシリーズ! 「蚊〈モスキートウ・プレグナンシー〉」 ……冒頭から、「あの不快な羽音」が聴こえてくる描写は、読者側を主人公・若菜の苛立たしさ・そして、これから始まる【悪夢】へと誘う、そんな「悪魔の羽音」の様です。  さりげなく、害虫進化論(殺虫剤に対する害虫の耐性)を若菜が呟いているのですが、このうっかりすると読み飛ばしてしまいそうな箇所が、新種の蚊「モスキートウ・プレグナンシー」の存在そのものに対する伏線・メタファーになっていることに気付くと、ゾッとすると同時に感心してしまいます。  岡島家の面々、ある意味「平凡そうな」この家庭の中で、「何かあるな?」と直感的に感じさせてくれる、父・直弘の存在感の演出が上手いです。    11月、夏から3ヶ月後の若菜の異変~病院での診察。  この間の若菜の絶望感、母・律子のヒステリーと悲嘆の表現の仕方は、帰路のシートベルトのカチカチといった所作の中にも集約されており、文章表現の素晴らしさを高く評価するに値します。  ノベリスタで審査されるエピソードだけでも、かなりのリーダビリティーのレベルに驚かされるのですが、読者の皆様には是非とも! この後の第2話以降を引き続き楽しんでもらいたいと思います。  ウールリッチ風の得体の知れないサスペンスと共に、直弘や【ある人物】の過去にまつわる秘密が、徐々に我々の前に姿を現して来るのです。  正体不明の存在や悪意、そういった恐怖感をジワジワとあおる小説。  最高級のスリラーです。
1件

この投稿に対するコメントはありません