岡田朔

「ダイム・ドロップ」 彼女がまるで朗読でもするようにそう言ったので、僕はスマートフォンの画面から目を上げる。 「ダイム・ドロップ」 僕もそう返してみる。 「そう、この話で大事なのはこのダイム・ドロップなんじゃないかと思うの」 「なるほど、確かに重要人物ではありそうだね」 「そういう事じゃないの。私にとって重要なの」 「つまり、気に入ったって事?」 彼女はちらっと僕を見て、当たり前じゃないと言うように僕のスマートフォンを指さした。 多分早く読めと言う事なんだろう。彼女は早くこの小説についての話が僕としたいのだ。 「それで君は何を読んでいるの?」 「内緒」 「またイルカの快楽についてでも……」 「もう……。これ」 彼女が僕の方に傾けたスマートフォンの画面には、幾何とマンドラゴラというタイトルの小説が開かれていた。 ◆◇◆◇◆ レビューを見てとっても楽しみにしていた「君との逃亡生活方法」、期待を裏切らない素敵な作品でした。沢山の方が作品の良さについては語っているので、ちょっと違う話を。 多数さんの作品の中で私がとても好きなのは、意識しなくても浮かんでくる程の創り出された世界の美しさです。 とても繊細なんですよね。良く見ると透明なシルクのような糸で出来ているんじゃないかなと思うような、繊細な優しさや張りつめた空気、触れると泣きそうになるようなそんな感じがあります。 それから、ウィットに富んだ会話の優しい遊びがそこに温度を加えます。大体多数さんの書く登場人物はほんのり温かいです。 過剰に書かれているわけではないのに、余白に沢山の感情が溢れているような。書かれている以上に伝わるものがあります。 で、主要の登場人物は勿論素晴らしかったのですが、一体どのように書かれてくるのかと期待していた情報屋。レビューではなんだか相当嫌な人物そうだったのに、多数マジックでしょうか。とても魅力的なキャラクターとして登場します。 「羊をめぐる冒険」に出てくる羊のような少し不思議で、でも憎めなくて、読者と登場人物を導いてくれるようなそんな存在に思えました。かなりのお気に入りキャラです。 さ、とりあえず窓を開けてみようかな。 そんな気になる「君との逃亡生活方法」是非読んでみてくださいね。 素晴らしい作品です。
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レビューありがとうございます。 なんというか、レビューのやり取りの方が素敵な気がするんですが……^^; ダイム・ドロップは物語のキーとして、またトリックスターとしての性質のある人物ですが、そのイメージの元になっているのは仰る通り羊男も含まれています。 恐れ入りました。 実は服装をを考える時に、一度は動物の毛皮のつなぎも考えたのですが、それではあまりにも羊男すぎるんでやめたという経緯があったりもします。 ちなみに色々な色や布のツギハギの服装は中世の道化の服装です。 トリックスターそのまんまですね。
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