旗俥氷鳰(覇)

愚劣なる女は言った。 「私ほど人を傷付けぬ者はいない」 傲慢なる男は問うた。 「貴殿は嘘を吐かぬのか?」 愚劣なる女は答えた。 「我、嘘を嫌う者也。故に嘘など遣わぬ」 傲慢なる男は重ねて聞いた。 「貴殿は人を傷付けぬのか」 愚劣なる女は答えた。 「然り。我は傷付けられる者を見、苦しんでいる。」 傲慢なる男は糾弾した。 「貴様のその言い分こそが人を傷付けている」 愚劣なる女は返した。 「有り得ぬ。私は嘘を嫌い、人を傷付けぬ。貴殿は我が存在を虚偽と申すか?」 傲慢なる男は答えた。 「貴殿の存在は嘘とは言わぬ。しかし、生き様は虚飾に彩られて居る。」 愚劣なる女は返した。 「此は此は酷い人よ。か弱き者を糾弾し、果ては残酷なる言葉を用いて虐げる。」 傲慢なる男は。 「最早貴様へ掛ける言葉は尽きた。我は貴様への関与を諦める。」 そう言い捨て場を去った。 残された愚劣なる女は声を大にして言った。 「我は奴等に虐げられている!しかし負けぬぞ!今後、この世に在せし虐げられる者のため、此の現状―上の立場のものが下の立場を虐げる。 此の現状に勝ちて見せよう! さぁ我と同じく虐げられし者よ!我が一挙一動足をとくと見よ! 必ず勝ちて貴君ら弱者に勇気を与えよう!」 此を聞いた非道なる男は呟いた。 「何も理解せず、自らを悲劇の姫に喩え、果ては己に道を示した者を虐げた者と糾弾する。 その様な者が最も人々を傷付けると何故分からないのか。」
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