常田花揺

懐かしさとは、訪ねてゆくものではなく、あちらからやってくるものだと学んだ。 自分から過去へ帰ることなどできず、ただ、見覚えのある現実味のない場所に迷いこんでしまった感覚だけで、懐かしさは微塵も起こらない。 しかし、今現在生きている空間へ、去っていったものが訪ねてきた時、ああ、懐かしいと勝手に思えていた。 当時、何を考え、何を感じていたのか、ずいぶんとかすれて、思い出を尋ねられても答えることが出来ないくらいだが、以前その場所で生活していた時に持っていた感情を、感想を、その場に足を踏み入れた時から少しも違わず、同じものを抱いたことに気がつき、この場所は、この場所であり続け、私もどうやら私であり続けるのだな、と思って、もう、現在ではない場所から帰ってきました。
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