ありす

この作品を読みながら、真っ先に頭に浮かんだフレーズがあります。 『読む映画』 文章から醸し出される感触や香りや情景が、とても実直で目の前に広がります。 数多くの登場人物はそれぞれの正義と主張を胸に行動しますが、誰が悪いか何がいけないかではなく、為るべくして世界は動く。 ひとりひとりの心理描写が違和感なく散りばめられていて、それが仕掛け細工のように組み合わさって動きだし、壮大な群像劇となる……。 まるで叙事詩のようです。 登場する人物がまた魅力的。 主役はもちろんですが、敵方となる人物にも視点を変えれば主役となり得るドラマを秘めていて、それが一層この作品を奥行きの深いものにしています。 ラストで人物たちのその後が淡々と語られているのも、映画のエンドロールを見ているようで感慨深いです。 余計な改行や行間を空けていないのはシリアスな作風に合っていて好感が持てます。 どうしても電子書籍は読みやすさから空白が多用される傾向になりがちですが、この作品は書籍のように凝縮された世界なので、この点は嬉しかったです。 細かいことを言ってしまうと、感嘆符やダッシュ、三点リーダーなどを書籍仕様にしてくれたらなと思いました。それだけ質が高いと思ったので。 200ページに満たない、壮大な群像劇。 映画化して欲しいなと思う逸品です。

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