1960年代後半から1970年代にかけての、ズバリ「高度経済成長」の時代に青春を過ごした読者なら感涙し、また当時を全く知らない読者にはかえって「新しい」感覚を与えてくれるような、いわば《実録小説的》な傑作だと思います。  通常、過ぎ去りし日々というのは想い出が補正されて、セピア色の美しさを感じることが多いのですが、今作の面白い部分は、当時をリアルに生きている登場人物ならではのほろ苦さや、あの時代特有の退廃的ムードすら味わわせてくれるのがポイントなのです。  ピンボールマシンの【ティルト】警告音や、チープなゴム駆動のシステム(だんだん摩耗してくる。笑)の触感が蘇ってくる一方、そこには「これからどうなるのか分からない」モラトリアムを終わらせて行く少年期~青年期ならではのアンニュイさも窺い知ることが出来るのです。  1970年代中頃まで、ゲームセンターに集っていたのは、はっきりと《不良》としか言いようのないお兄さん・お姉さん達でした(苦笑)  紫煙が燻る喫茶店のガラステーブルに備え付けられた、インベーダー・ゲームの赤や緑のレバーを引きながら、名古屋撃ちの達人に勝負を挑み、タンノイ・スピーカーががなり立てるヒカシューの『20世紀の終わりに』を聴くと、どこか遠い時代に思われた21世紀のまだ見ぬ世界よりも「今」の怪しい輝きの方が魅力的!  そんなことを考えていた、あの頃のナウでイカしたヤロウども&メロウどもは、どこへ行ったのでしょうか?  甲虫類の序列から、やがて人間社会最初のヒエラルキーの洗礼を受ける少年たち。徐々に森林や野山は再開発によって姿を消し、公園にいつでもあったはずの放置された土管は、もう漫画の中でしか見ることが出来ない。  イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』が奏でる哀愁は、ケネディ兄弟亡き後の希望とは真逆のアメリカ(ベトナム戦争の泥沼化~冷戦の再激化)のみならず、日本の小さないち都市に「確かに生きていた」あの頃の人々が口ずさんでいたメロディーでもあるのです。  僕たちは本当は知っているのかも知れません。  引き出しを開けたって、そこにはタイムマシンなんてありはしないことを。  マッシーさん、素晴らしい作品をありがとうございます。
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わああ、凄いレビュー! このレビューだけ見たら、この作品が凄い傑作のように見えてしまいますね(笑) >僕たちは本当は知っているのかも知れません。  引き出しを開けたって、そこにはタイムマシンなんてありはしないことを。 特にこの最後の二行はカッコ良い。 小説本文に使わせて貰いたいくらいの名文ではありませんか。 熊川レビュー、恐るべし(^^; 公園や空き地に有った土管は、今はもうほとんど見ることが無くなりましたね。 子供たちにとって、社交場であり、戦場であり、宝島でもあった雑草の生えた空き地。 横浜からはほどんど消えてしまいました。 子供たちの社交場も、今やネットの時代になり、虫取り
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 マッシーさん、ご丁寧なお返事ありがとうございます!  いやはや、昭和は遠くになりにけり。で、涙がこみ上げて来ました(笑)  拙いレビューで、作品の良さや奥深さを完全にはお伝え出来なかったものの、マッシーさんに喜んでもらえて、本当に幸いです!!  o(^▽^)o  僕も《自伝的小説》書いてみたことがあったので、過去の遠い記憶から物語を紡ぐことの難しさ&尊さは、よく分かります。  追伸;パートナー様・金子さんより、たくさんの「里見拓」作品を教えて頂きましたので、随時コメントさせてもらいますね!  楽しみです。今後ともよろしくお願い致します!! 
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