清瀬 美月

大学在学中に書いた小説が賞を受賞し、若くして鮮烈な文壇デビューを果たした主人公と、16歳という若さで海外のバレエコンクールにおいてスカラシップを受賞した彼女。 そんな輝かしい過去を持ち、全く異なる世界で生きてきた二人が、いろんな偶然が重なって出会うところから物語は始まります。 瀬戸内海に浮かぶ小さな島で初めて顔を合わせるシーンは、ひとつひとつの描写が丁寧でとても美しかったです。 だけど、どこか二人は幼くて。 ああ、若くして成功を収めたことで学生時代に経験するようなことを蓄積せずに大人になってしまったんだなという印象を持ちました。 特に彼女は他人のことにあまり興味がなく、その天然さが何ともはちゃめちゃで(実際に近くにいる人は困ってしまうんだろうけど)すごく可愛かったです。 中盤から一気に加速していくのですが、彼女が携帯で繰り返し流していたエリック・サティの『ジムノペディ』然り、何度か読み返していくうちに、いくつも伏線が隠れていたことに気付いた時には、正直驚きましたね。 主人公は勿論、読み手側もすっかり騙されてしまいましたよ。 そして、物語のキーパーソンはやっぱり彼女の祖母の存在でしょうね。 かみ合っているのかかみ合っていないのかわからない、二人のゆるいおかしな会話にどんどんと割り込んでくる超現実的なおばあちゃん。 小説家だからか、比喩をふんだんに盛り込んで会話する僕を「わかりにくい」と一刀両断し、口を開くたびに容赦のないツッコミが浴びせられていく様子に、笑いを堪えたのは私だけではないはず。 また、毎回おばあちゃんが作ってくれる食事メニューがたまらなく美味しそうで、彼女の掘った穴に落ちた主人公が泣きながらうどんをすするシーンではもらい泣きしそうになりました。 物語のラスト、漆黒の海に向かって主人公が叫ぶシーンではもう涙腺崩壊です。 遠くを照らす灯台の灯り、穏やかな海の凪いだ様子、心の色を投影したかのような深い紺青の世界観。 都会では見られない澄み切った濃紺の夜空に、まるで宝石箱を広げたかのように煌めく夏の星座たち。 ここで終わるのかという一抹の寂しさと、ほんの少しの痛みを伴った後引く余韻(ここに繋がるのですね) これらが絶妙に混ざり合って、映像が切り取られたかのように瞼に焼き付いて離れませんでした。 溜め息ものです。 (★)
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