陶山千鶴

蛇目日傘にとって、ハロウィンは発表会のようなものだったが、何事にも限度というものがある。ハロウィンの当日、日傘は山都大聖の眠る寝室に忍び込み、 「誰だ!! てめぇ!! どこから忍び込みやがった!!」 山都の怒号が寝室に響き渡る。どうしてこうなった? 訳が分からない。今日はハロウィンであり、仮装する。日傘も同じく仮装してきた。仮装して、山都の寝室に忍び込んだ。それだけのことだ。それだけ、その後、山都と同じ布団でウフフな展開に持ち込むつもりだったのに、 「え、ちょっと、山都くぅん? 私だよぉ。蛇目日傘ぁ、ねぇ」 「日傘ぁ? 日傘の頭が、そんな蛇になってるわけないだろ。あいつは蛇の力を持っていても髪の毛まではできなかったし、そんな怪物みたいな肌もしてない」 騙されるかと、威嚇してくる山都に、日傘は頭を抱えたくなった。特殊メイクの完成度が高く、山都は日傘を正確に認識できていない。 「きょ、今日はハロウィンだからぁ、仮装してみたんだよぉ」 もう、泣きそうだった。この日に頑張ってきたのに何の役にもたってないどころか、山都は不審者だと思っているだろう。彼の持つ獅子の力で迎撃されなかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。シャーシャーと蛇達がむなしく、舌を出し入れする。 「や、山都くんをビックリさせたかっただけだよぉ~。ハロウィンだからぁ~」 「わかった。わかった。もう、帰れ。ほれ、お菓子だ。もう、こんなことするなよ」 呆れられたのか、ガリガリと頭を掻きつつ、山都はポケットに入れていたお菓子を手渡した。 「………ありがと」 ポンッと置かれたチョコレートを見下ろして、日傘は答える。どんな形であれ、お菓子は貰えただから、それでいい。うんと頷いた。 「甘いよぉー」

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