陶山千鶴

赤羽揚羽にとって、ハロウィンは縁遠いイベントだった。父親から実験道具、自身の身に宿る不可思議な蝶の力を利用去れる存在だった、彼女にはハロウィンを含め、イベントに参加したことは、ほとんどなかった。 金髪少年こと、山都大聖に助けられ、こうして平穏な日常を送れるようになっても、それは変わらなかった。まぁ、マイペースな彼女の性格も関係しているが、急ぐことはないのだ。 「山都お兄ちゃん。絵本、読んで」 ハロウィンまで、あと数日前のこと、揚羽は絵本を持って、山都の自室に来ていた。 「ん? なんだ。また、来たのか」 「だって、やっとカボチャ紳士の冒険記、借りられたから、山都お兄ちゃんに読んでほしいと思ったんだもん」 ダメ? と聞くと山都は、いやと答え、 「ただし、夜更かしはしないからな」 「んっ」 と揚羽は頷き、山都の膝に座る、大きな身体にすっぽり覆われている感じはとても安心できた。守られて、素直に甘えられる時間だ。 山都の朗読に耳を傾ける。カボチャ紳士の冒険記は、呪いでカボチャ頭になった青年が冒険をしていく絵本だ。戦いや、謎解き、仲間との協力とさまざまな展開があって人気であり、図書館でやっと借りられたのだ。 「ねぇ、山都お兄ちゃん。もうすぐ、ハロウィンだよね」 「そうだな。ハロウィンだな」 「ハロウィンと言えば、カボチャだよね」 揚羽は絵本の表紙を撫でながら言った。 「まぁ、ハロウィンと言えば、カボチャだな。お菓子や仮装も有名だが」 しかし、ハロウィンと聞いて真っ先に思い浮かぶのは顔の描かれたカボチャだ。 「この前、テレビで見たんだけど、カボチャの中身をくりぬくらしいけど、カボチャの中身ってどうしてるのかな?」 「ん? そりゃ、食べてるんじゃないのか?」 と山都は答えるが、正直、わからない。 「ふーん。山都お兄ちゃん、カボチャ、好き?」 「好きだぞ。甘いし、ご飯と一緒なら最高だと思う」 「私はあんまり好きじゃなかった。ゴツゴツしてて、固そうだし、ハロウィンもあんまり好きになれない」 だって、 「私は参加できないんだなって、みんなと違うんだなって思うと寂しくなるから……」 「今はどうなんだ? 寂しいのか?」 「んーん、全然、山都お兄ちゃん達がいるから」 恥ずかしそうな揚羽に、山都は苦笑しながら、 「そっか。ハロウィンが楽しみだな」 「楽しみ。魔女の仮装がしたい」
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