陶山千鶴

ハロウィン、数日前のことだった。影沼帽子(カゲヌマ、ボウシ)は蛇目日傘に呼び出され、唐突に、こう、尋ねられた。 「ねぇ、帽子ちゃんはハロウィンで仮装したりするのぉ?」 と尋ねられ、帽子は困った。何も考えてなかったからだ。影沼帽子にとってハロウィンなんて正直、どうでもいいことだったし、仮装にもそれほど、興味もないが、せっかくの日傘からの呼び出しを台無しにしたくない。 「え、考えてはみたけど、ボクには似合わないと思うよ」 ギュッとニット帽をつかみながら言う。 「そうかなぁ、帽子ちゃんって綺麗な金髪だし、きっと、似合うと思うけどねぇ」 パラパラとカタログを開き、日傘は見せてくれた。仮装と言うより、コスプレと言った方がいいかもしれない。 「ほら、金髪なら、吸血鬼? 帽子ちゃんならきっと似合うよ。男装の麗人ってやつ」 「吸血鬼」 と言われて、帽子も想像してみる。黒いマントで夜を駆け抜け、スルリと屋敷に忍び込み、寝室に眠るお姫様(相手は日傘)の首筋にそっと牙を突き立てる。 女性同士ということもあってか、なんだか背徳で、ドキドキしてしまう。心臓は鼓動を繰り返し、真っ赤な血が体内を駆け巡り、 「…………っ!!」 帽子は耳まで真っ赤に染まってしまった。 (日傘ちゃんとボクは女の子なんだから、そうのはなし!! 絶対に!!) 一人、コクコクと勢い首を横に振って、あれこれ、呟く日傘を見て、もう一度、顔を赤くするのだった。 (でも、ハロウィンだし、日傘ちゃんがお姫様なら) 頭の片隅に浮かんだ妄想を帽子はブンブンと振り払うのだった。

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