陶山千鶴

【コメント連載作品。十一話】 取り繕うことのないまっすぐな言葉、嫌味が嫌味にならない。まるで、王道の物語にあるような不幸な少女と、勇敢な戦士のようだとだった。不意打ちでもくらったように、由真は口をパクパクさせた。 はっきり言おう。とても恥ずかしかったし、顔がカァッと熱くなる。何を考えているんだ。アホかと自分を叱責し、 「もういい。寝るっ!! お前は出て行け」 「そうか、何かあったらすぐ呼べ」 「ああ」 と方正は立ち上がり、出て行こうとする、その後ろ姿に由真は思わず口を開いた。 「おい」 「ん? どうした」 「助けてくれて、ありがとう。一応、世話になったからこれだけは言っておく」 「気にするな。俺にできることをしただけだ」 気取ることのない言葉に、由真はプイッと視線をそらした。 「それと、もっと素直になったほうが、可愛らしくていいと思うぞ」 「う、うるさいっ!!」 顔を真っ赤にして、由真は叫んだ。余計なお世話だと枕を投げようとして、うっかり無くした右腕を使おうとして激痛が走った。 一人になった。おそらく、あの男、山都方正は近くに居るだろう。なんとなく気配でわかる。とんっと身体を布団に預けて、一息ついた。ドクドクと鼓動を繰り返す心臓は落ち着きを取り戻している。 きっと、これは吊り橋理論だ。危機的な状況に陥った男女が恋人同士のような感覚に陥ることがあるという。この人に見捨てられたら死ぬかもしれない。だから、相手が魅力的に、恋人のような特別な関係だと錯覚してしまう。 王道の物語、不幸な少女と、勇敢な戦士という想像も同じだ。今の由真は一人で生きていくことは難しい。方正に見捨てられれば、由真は途方にくれる。錯覚だ。勘違いだ。間違いだ。 (そうだ。私は盗賊だぞ。盗賊なんだ。不幸な少女なんて不釣り合いだ) むしろ、不幸を撒き散らす立場だ。因果応報、自業自得、悲惨な死こそふさわしい。 きっと、こんなふうに生き残ったこと自体、間違いだったけれど、 「…………くそっ、くそっ、くそっ」 生き残ったことがとても嬉しくて、とめどなく涙が溢れ出した。
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