陶山千鶴

【コメント連載作品。十三話目】 「撤退して正解でしたねぇ、まぁ、蛍火は戦闘大好きな鬼ではありませんし、あんな奴らとドンパチするような熱血でもないですし、んー、これを攻撃されなかったのは不幸中の幸いというやつでしょうか」 うなじに生えた二つの角を撫でつつ、蛍火は、シュルシュルと家主の娘の着物を纏う、方正との戦闘や、領主の屋敷の住人、全てを喰い殺したせいで返り血でベッタリと汚れていた。 「ねぇ? そう思いませんか。お嬢さん」 と縄で繋いだ少女を見下ろした。猿ぐつわでしゃべれなくしてあるため、返事はかえってこないが、瞳は恐怖に染まり、ガタガタと震えていた。まぁ、無理もないだろう。 両親を目の前で『生きたまま喰い殺れた』のだから、その恐怖は相当なものだ。心の一つや二つ折れてもおかしくない、たとえ、折れなくても構わない。これからゆっくりとへし折っていくのだから。 「美味しい料理ほど、手間暇かけるほどに美味になる。そう、長年、貯蔵しておいた酒のように、その味は良質なものになっていく」 少女の顎を人差し指でついと、押し上げつつ、蛍火はニヤリと笑った。そろそろ、頃合いだろう。この娘の心が恐怖で染まった。 食人鬼、蛍火の主食は人間であるが、それと同時に喰らうものがある。人の心や、感情だ。 当然、恐怖に煽られた人間ほど、美味いものはない。挫折や後悔、恐怖は人間を良質な食料に変えていく。 手間ひまかけたぶんだけ美味いし、一番、大切なのは生きたまま喰らうことだ。殺してしまっては味が落ちる。 (ぶっちゃけてしまうと、人は死ぬ瞬間こそが一番なんですけどねぇ) スーッと人差し指を少女の頬を伝い、耳に通り過ぎ、両目を人差し指を当てた。少女の身体がガタガタと揺れる。 クスッと蛍火は笑い。少女の片目に人差し指をねじ込んだ。絶叫と鮮血、グリグリと眼孔の人差し指で抉る。 眼球が潰れ、少女の身体が痛みにビクビクと跳ねる。クスクスと笑いつつ、蛍火は少女を縛っていた縄をほどいた。 「十秒、あたえましょう。その間に蛍火の見えないところに逃げられたら、貴女を見逃してあげます」
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