陶山千鶴

【コメント連載作品。十六話目】 「蛍火は善悪を語るつもりはないんですけどねぇ」 死んでいる。生き返ることはない。殺したのは蛍火なのだから、よくわかっているが、蛍火の心中にはフツフツと怒りが沸き上がっていた。怒りを向ける相手は全て肉塊にした。充分に満足なはずなのに蛍火の怒りはおさまらない。 「蛍火は、命を狙われることも、殺されそうになることを構わない」 でも、食事を邪魔されるのだけは嫌だ。手間ひまかけて、用意したはずなのに、こんなの不味いと皿をひっくり返されたら用意された側は怒りを覚える。 蛍火も同じ心境だった。食事を邪魔されたこと、そして、何より、この少女は蛍火を仕留めるだけの使い捨ての駒にされたことだ。 殺した側の蛍火が文句を言うのはお門違いもいいことだが、蛍火は無意味な死があまり好きではない。殺すのなら、喰うし、腹が空いていないのなら見逃すこともある。 この少女はどうなる? 覆面男達は、少女を助けられるのに、蛍火を仕留めるためだけに簡単に切り捨てられたのだ。 無意味だ。彼らにとって、少女は道端に転がる石と変わらない。踏みつけようが、蹴り飛ばそうが誰も気にしない。 「そういうのはとてもむかつくんですよねぇ、蛍火はぁ」 矛盾しているかもしれないし、めちゃくちゃ理屈かもしれないが、蛍火には、蛍火なりの誇りがあるのだ。 「こういうのは、熱血っぽくて嫌いなんですけどねぇ」 少女の身体を抱え上げて、蛍火は人骨の棍棒をグワンッと地面に突き立てて、一気に抉った。抉られた土が、空中に舞い上がり『人一人が入れる程度』の穴が出来上がる。 その中に少女の遺体を投げ入れ、降ってきた土を棍棒で集め、穴の中に戻していく。盛り上がった土を均等にならして、そこら辺りにあった巨大な岩を置いた。 「まぁ、来世では幸せな人生が送れるように願うんですねぇ」 柄にもないことをしたと、蛍火はボリボリと頬を掻きつつ、体内に棍棒を収納し、クルリと踵を返した。 「さて、食い残した相手がいました。蛍火としては、食い残しも趣味じゃないです」 肉塊になり果てた、覆面男達を放置して、 「ついでに、この男達の上司を殺しておきますか」

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