あっという間に読了。千冬さんのホラー、やっぱり貫禄あるなぁと思いながら拝読させていただきました。期待を裏切らない、安定感のあるおぞましさに心底脱帽。 本当にありそうなのが恐い。 何年か前に読んだニュースの記事を思い出しました。電車に乗った男性のリュックから異臭がしたものだから、駅員の方で問いただし調べみたところ、ビニール袋に詰められた子供の白骨死体が入っていたっていうやつです。 男性の供述によれば、息子の死が信じられずに十年以上リュックに入れて持ち歩いていたのだとか。 人間、ほんの一歩だけ道を踏み外すのは案外簡単なんじゃないかなぁと思うのです。その気になればすぐ戻って来られる程度の歩幅なら、確かに怖いけど踏み出せない事はない。少なくない人間が一回くらいは踏み出していると思うし、その境界線を目の当たりにしたことがある人はもっと多いと思います。 ただ、大多数の人はその一歩目を踏み出さない。踏み出した人も、たいがい怖くなってすぐ足をひっこめる。この作品の弟さんは、まだこの辺にいるんじゃないでしょうか。 でも……、 一歩目を踏み出したまま、何かの拍子に二歩目を踏み出し、さらに三歩目を踏み込んでしまったあたりで、道を外れる罪悪感が麻痺してくるような気がするんです。そうなった人はきっと、『自分はほんのちょっと外れているだけ』と思い込んだままどんどん道を外れていくんじゃないかと。 その証拠に、こういうねっとりとした異常性を含む事件を起こすのってだいたい『何であの人が……』って言われる年配の方。長い時間をかけてほんの少しずつ道を踏み外し続けて、とても恐ろしい闇の中に踏み入っているのに、まだ自分の常識は壊れていないと思ってしまう。だから普段は演じるまでもなく、普通の人でいられるのです。 本作、事件が発覚した後に次々と明るみに出た老店主の所業が、そういう意味でものすごく生々しかった。 本物の狂気とはそれを自称する若者が振りかざす刹那的な暴走などでは断じてなく、長い時間をかけて常識から逸脱した本人だけの『当たり前』なのだと思いました。
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レビューありがとうございます! わあ!事実の方が小説より怖い!((( ;゚Д゚))) 愛情の発露からくる奇行は、時として常軌を逸します。 それが、周囲を巻き込むと、結構な事件になったりします。 ネタがちらほら浮かびながらも、前日の夜に慌てて形にしたような状態で申し訳ない作品になってしまいました。 ありがとうございました。

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