美森 萠

人生に失敗はつきもの。誰しも「過去に時間を戻せたら」と思う瞬間があると思う。では、どの瞬間に時間を巻き戻せば、あなたはその失敗をなかったことにできるだろう? 彼女が家を出て行ったとき? 彼女を一人置いて長期の出張に出ることが決まったとき? 一緒に住むことに決めたとき? 初めてのデート? それとも彼女と出逢ったまさにその瞬間? 果たしてあなたは「このときに戻りさえすれば、自分はやり直せる」とはっきりと言うことができるだろうか。  物語は、若い男性記者が取材の相手である男性とバーで待ち合わせたシーンから始まる。 恋人と別れの瀬戸際にいる記者と、別れた恋人を今も想い続ける男性。仕事の話をしていた二人だが、ふとしたことから話題は男性の過去の恋愛話へと移る。 二人の会話に挿まれる男性の回想シーンが印象的だ。恋人を失った当初感じた当惑、次第に込み上げる怒り、そして突如訪れる喪失感、諦めと後悔。 男性は一人になり、彼女との関係を頭の中で整理することによって、自分に足りなかったことをようやく自覚することになる。だが、時すでに遅し。男性は一度は退いた仕事に戻ることによって、過去との決別を決意する。 しかし、男性と記者との出逢いが、男性の未来を大きく変える。そしてこの出逢いは、記者とその恋人の未来をも変えることになる。 ここで話をはじめに戻そう。男性は、どの瞬間に戻れば恋人と別れることにはならなかったのだろう。 答えはそう、過去に戻る必要はない、だ。 恋人との別れが、自分のことばかりで彼女に甘えきっていた彼自身を成長させた。使い古された言葉かもしれないが、「大切なものは失ったからこそわかる」。痛い失敗をし、長い後悔のときを過ごしたたからこそ、おそらく彼は、この先二度と間違えることはない。人は失敗をしてこそ成長する生き物なのだ。 ―――――― 読み手に多くの気づきを与えてくれる、短編でありながら非常に読み応えのある良作だと思います。ぜひたくさんの方に読んでもらいたいです。
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美森さんのレビューはいつも作品を作者とは違ったアングルからしかも深く読み取ってくださるので、 しばしば作者も思わぬような視点から作品に対して深い理解を示したりなさって作者の方が驚いたりしている(笑)んですが、 今回のこの冬ラブイベント参加作品へのレビューも軒並みすごいですね! 私へのレビューも鋭くて「はい降参です」みたいな感じです(笑)。 40ページで男性二人、それも世代の違う二人の人生が交差する様子がうまく書けているか少し心配だったのですが(回想シーンがやたら出てくるし)、美森さんのレビューを読んでほっとしました。 いつも本当にありがとうございます!!
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