吾妻栄子

話に流れるゆったりした空気に惹き込まれました。 率直に言って、「オジサン」の過去や現在の境遇はむしろありがちで驚くものではない気がします。 しかし、ヒロインが「オジサン」の席に座って風景を見渡す描写、マスターからグレープフルーツジュースを手渡されて普段と異なるものを出すアイデアを思いつく描写など、彼女なりに相手の目線に立とうとする姿勢が良かったです。 マスターがオレンジジュースと言ってグレープフルーツジュースを渡したのが単純な間違いなのか、敢えてそうしたのか。 その辺りも想像の余地があって良かったです。 やがては枯れゆく花の姿にヒロインが思いを馳せる場面には、花と「オジサン」が重ね合わされているようで示唆深いです。 全般に、ヒロインの心情描写が繊細で良かったです。 ただ、これは細かい点になりますが、マスターやヒロインら「オジサン」を気遣う喫茶店の人々と対照させる意図はあったとしても、看護師の言動が「私は千鶴子じゃありませんよ」等、いかにもヒステリックで拒絶的過ぎる点が気に懸かりました。 看護師やヘルパーならば職業柄「オジサン」よりもっと酷い認知症患者をいくらでも目にしているはずです(人前でも平気で排泄するレベルに比べれば、この『オジサン』ははるかにマシなはず)。 仮に若くて不慣れな看護師であったとしても「呆けがひどい」といった病気を蔑む言い回しを人前ではしないと思います(普通は『認知症なので』とか言うのではないでしょうか)。 それはそれとして、温かなお話でした。
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レビューありがとうございます! 細かいレビューで嬉しかったです 看護師の描写にはとても悩んだのですが(個人的に看護師さん大好きなのもあり)あえて酷く書かせていただきました。 というのも介護に関わる人の裏話を聞いたことがあったり、最近事件が実際に起こっているのもあり、これは看護師ではないのですが、もしかすると心の中ではこんな風に思っているのかもなということです。イメージは思ったことを口に出してしまう新米看護師ですね。心の中のことなので僕にはよくわからないですが……
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お返事ありがとうございます。 確かに介護に関して色々と酷い話は耳にしますし、虐待事件もあちこちで起きていますね (これには介護のスタッフが全般にブラックな労働環境で不遇感を抱えた人が多い事情も影響していますが)。 本来は見ず知らずの男性から妻と間違えられれば若い女性看護師としては戸惑うでしょうし (この『オジサン』はそんな人ではなくても性被害に遭う危険性もあるし、相手が認知症患者であればセクハラで訴えることも難しい)。 もしかすると、「オジサン」には喫茶店で過ごす時間が唯一自分に戻れる時間なのかもしれませんね。

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