「名探偵なんていらない」……ああ、なんと刺激的な題名だろうか!推理小説を好む者なら、この題名だけでもつい触指が動くというものだろう。  舞台は19世紀の架空の都市「リンドン」。探偵が職業としてだけでなく、貴族のように階級が認められている架空の世界観は、読む者を引きこむ。物語の端々に現れる、リンドンの街並み、生活様式、住んでいる人々の生きる姿がそうさせるのだ。  本作の特異な設定である「探偵という階級」。彼ら探偵は、探偵にあるまじき者共である。今作では探偵に警察以上といってもいい権力が認められている。その権力は絶大で、一部には権力を笠に来て横暴な振る舞いをする輩もいる。そのため、作中での探偵たちは嫌われ者だ。  僕は更新される傍から読み続け、ついに読み終えた。世界観のしっかりとした小説というのは、読後には読み切ったしまった名残惜しさが感じられる。個人的に好きなのは、リンドンメインストリートの情景だろうか。詳しくは本編に譲りますが、僕が読んでいる最中はその情景がありありと目に浮かびました。  本作の探偵役である青年エンハンスもさることながら、ヒロインメアリーが魅力的だ。なんとこのヒロイン、推理小説のヒロインでありながら、大の探偵嫌いなのである。その理由は前述の通りである。もうね、可愛いです。  もちろん作中の事件も不可解で、謎の魅力に満ち溢れている。また、作品中には推理小説に対するリスペクトもあり、人によってはニヤリとすること請け合いだ。推理小説を好む人も、そうでもない人も、一度読んでみてはいかがですか?

この投稿に対するコメントはありません