あーる

思い出の香りを纏わせて、自分の気持ちを誤魔化しながら年月を重ねる主人公の司。趣味の旅行先でその思い出の香りのひととの偶然の再会。 ふたりの時間はまた重なり合う。 ふわっと、どことなくアンニュイな雰囲気を醸し出す沖本先生が吸っている、甘い香りのタバコ。その匂いが大嫌いだと青くとんがっていた高校生の司に、先生は絵を描くことを通して、物事を立体的に捉えること、夢の輪郭を教えてくれました。 そんな先生との時間に司が抱いた淡い独占欲=恋心。 でも先生はある日目の前から去って行く。それを見送るしかなかった司の幼さが辛かったです。 教えてもらった夢の輪郭に、徐々に手を加え先生を追いかけているような司…そんな姿が私には健気で切なく映りました。 先生になる道を選び、自分の生徒にタバコの香りを指摘されたとき「これは俺の体臭だ」と言う場面、きゅっと胸が締め付けられ、涙が滲みました。そんなにいつも匂いを感じていたら、いつまでも過去の思い出になんかできないよね、と。 だから、異国の地での偶然の再会に、司と同じように、もしかしたらそれ以上に私の胸も弾んだかもしれません(笑) 再会した先生は、端々に好意を表しているのに、司はそれでもまた気持ちを押し込めたまま離れようとします。 きっと「今の司くん『も』描かせて」と言う先生のスケッチブックには、司のいろいろな表情が描かれているのだろうに。 先生は不器用な線しか描けない高校生の司を可愛く、愛しく、大切に思ったのでしょうね。 だからこそ、きちんと大人になる時間を与えるために離れていったのかな、と思いました。 再会した時、ちゃんと自分を覚えて想っていてくれてた、そこに泣けてしまった先生が可愛らしくみえました。 しがらみを脱ぎ捨て自由な芸術家基質をオープンにする先生のからかうようなプロポーズ。 きっとオランダの地で、あの時ふたりで描いた輪郭だけのマグカップには甘いコーヒー牛乳、否、ブラックコーヒーが波々と注がれるのだろうなと想像してしまいました(笑) 匂いの記憶はいつまでたってもその時の気持ちを連れてくる…ふたりにとって想いを確かめ合う匂い『ブラックデビル・カフェバニラ』。切なく、甘い香りの素敵なお話でした。
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あーるさん素敵なレビューをありがとうございます! 「そんなにいつも匂いを感じていたら、いつまでも過去の思い出になんかできないよね、と」 そうなんですよね。先生をずっと追いかけてる司くん。自分の中ではもうそれが当たり前で。思い出の中の存在なのに色褪せない。そのことに本人は気づいてさえいない。ずっとずっと手からすり抜けてしまった人を忘れられないまま大人になってあちこちを旅する。司くんは理論的で、先生と違って放浪はできない。堅実な人生を歩んでいる。性質は正反対な二人。なのに、というか、正反対だからこそ惹かれたのでしょうね。 先生はあちこち旅をしていろんな風景を描きたい。それが夢だと言っていた。
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返事ありがとうございます。 いつもお返事で物語の背景や想いを聞かせてもらうたびに、もうひとつの物語を読ませてもらっている気持ちになります。 今回もお返事で泣きそうになりました。 本当に嬉しいです^^ これからも微力ながらエールを送らせてもらいますね(*´∀`) (でも重すぎたら言ってくださいねーww) 益々のご活躍期待しています(´∇`)
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