倉橋

 この方の作品にはいつも驚かされる。  むだのない簡潔な文章で書かれた短篇。だが密度は濃い。  あるカップルの20年以上に亘るストーリー。  それを僅か3頁にまとめている。  その構成力にまず舌を巻く。  20年前のエピソードなど、それだけで一篇の長編になりそうだ。  普通の人間ならもっと長く書くだろう。  作者は密度の濃いエピソードを、惜しげもなく出してきて、十分以下で読めるくらい短く、味があって、深い感動を受ける短篇にまとめてしまう。  それがあまりにも短いからこそ、読者であり、一応書き手でもある自分はいつも驚かされる。  この方の文章はまちがいなくうまいんだと思う。  簡潔に書いていながら、筋書を読むような味気なさは微塵と感じられない。  だからこそ読み終わった後、心地よい感動が残る。  異論はあるものの、エドガー・アラン・ポーが、  「小説は短篇でなければならない」 と主張したことはあまりにも有名である。  この方の作品を読むと、それが正しい主張のように思えてくる。  長編に流れやすい傾向の中、この方は、短篇の可能性を追求している感すらある。  読み手の立場からハッキリ言えば、私は、この人の作品が好きだ。  書く立場から言えば、この人の作品から触発されるものは多いと考えている。  ふつうなら長編にするようなテーマを、わずか数頁にまとめる力。  私は心底羨ましく思う。  
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大変丁寧でステキなコメントをいただきまして、誠にありがとうございます!

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