立て続けに短篇を発表している作者の第三作目。  今回は、先回、紹介した『はるの音 其の一』の続編にあたる。  前の作品もよかったが、今回の作品はシリーズ物としての魅力がますます発揮されてきていると思うので、ぜひにと思って紹介した。  寿司屋を舞台に、ゆったりと展開する人情小説。  前作同様、決して劇的な展開がある訳ではない。  寿司屋の主人は、わけありのお客がいると、どうしても気になってしまう人情家。 とはいえお客の気持ちを思いやる主人は、あまり突っ込んだことも聞けず、せめてお客が喜ぶ寿司を握って心をなごませようとする。  「お母さん」と呼ばれる妻は、時には遠慮なくお客に話しかけ、隠していた気持ちを引き出していく。  前作にも登場した高校の女性教師と同僚の男性教師。  今回は女性教師の後輩も加わる。  彼等が織りなすささやかな人間模様が、ゆったりと読者の心に、春の息吹のようなあたたかい感動を運んでくる。  ヒーローなんて登場しない。  時には悩み落ち込み、ある時はどうにもならない無力感にさいなまれながらも、一日、一日を真剣に生きようとするささやかな人々ばかり。  その人たちの日常が、どんなにステキな小説になるのか?ぜひ読んで実感して欲しいと思う。  この小説は、シリーズ化されるのだろうか?  いろいろな短篇を書こうと思っているのかもしれないが、読者としては、ぜひともまた小説の寿司屋を尋ねてみたいと願っている。  
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