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シーと亡き王女のためのパヴァーヌ
倉橋@新作発表
2019/5/13 12:11
少女を主人公にした幻想的でさわやかな読後感の作品。
作者は、シーと呼ばれる小型犬を飼っており、恐らくは作者の分身と思われる人物の一人称で、その人物とシーが出会った様々なエピソードを多くの短篇に描いている。 エブリスタでは、重要なキャラクターであるシーと共に、大きな人気を集めている。 実際にあった出来事もあれば、それをふくらませたフィクションもあるようだ。キリストやサン・テクジュペリ、原民喜、ビートルズなどを軸に、氏の宗教観や人生観、恋愛観、人間観察に踏み込んだ作品が多い。 私は氏の作品については、独特な雰囲気を持つメッセージ小説として解釈し、この間、愛読を続けてきた。 最近、氏の作風に多少の変化を見出すようになった。 ここのところ、氏が発表した作品を読むと、ひとりの少女を主人公に、完全にフィクションと思われる幻想的なタッチの作品となっている。 従っていい意味での通俗的(物語性と言い換えようか)な面白さが楽しめ、作者のメッセージがストーリーを通して、間接的に伝わってくる内容となっている。 いずれの作品も、作者の分身と思われる人物とシーが重要なキャラクターとして登場する。 本作は、街頭で似顔絵を描いて生計を立てている野宿の少女が主人公である。実際には、氏が発表している長編に登場する人物やエピソードと密接に関わり合っている。 だが独立した作品として十分面白い。 好奇と侮蔑の目に晒されながら、街頭で似顔絵を描き、ハーモニカを奏でる少女の物語は、読む者の胸に迫るものがある。氏の作品全般の特徴だが、やさしいタッチながら、冷たく厳しい現実の姿をあますところなく伝えている。 冷たい世間の雑踏の中にも、僅かだが心のやさしい人がいる。 孤独な少女を励ます人との触れ合いを通し、少女には思いがけない新しい出会いを迎える。 それは明るい未来につながっているように見える。 今回の小説は、現実社会を舞台に描かれるひとりの少女の幻想的な物語であり、さわやかな読後感を覚える。それだけでこの作品に満足するだろう。 だが一歩踏み込んで、この物語の中にある作者のメッセージが何かを考え、少女の物語の中にそれを感じ取る時、読者である私たちが得るものは大きいと考えている。 本作は応募作品ということだが、現代社会に向けた作者の秘められたメッセージが評価されることを祈ってやまない。
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ユッキー
5/13 13:06
倉橋さん 本当に丁寧で素敵なレビューありがとうございます 本当に感謝しております
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