純文学作家が紡ぐヒューマンな青春小説
 ツヅキミトさんは、純文学の立場から「大人の恋」を描き、エブリスタのコンテストでも注目され、確実に読者を増やしている。  今回、ツヅキミトさんが新たな構想の下、『はるのおと』第二部、其の一を発表した。  第一部からの熱心な読者としていう。この作品は第一部からの完全な続編である。  家庭がありながら同僚教師に思いを寄せる女性教師。同じ思いを抱きながらも、女性教師の抱える様々な問題を全身で受け止める決意が持てずにいる同僚教師。  ふたりの心模様を軸に、行きつけの寿司屋の店主と妻とのふれあいがゆったりと描かれるのが第一部。  第二部其の一は、それから数年後、女性教師の息子の視点で描かれる。  多感な少年時代に辛い別れを経験。高校二年になった今、新しい旅立ちを決意する。  そっと見守る両親・・・  第二部其の一は、ヒューマンな青春小説である。  両親、寿司屋の店主、その妻とのふれあいを通じ、少年が確実に成長していく様子が、短い頁の中で、第一部と同様、ゆったりと味わい深く語られる。  第二部を読んで感じたのは、ツヅキミトさんがよい意味での通俗性を作品に取り入れたことだ。  第一部よりもストーリーの展開に重きが置かれているため、初めてツヅキさんの作品に接する人も親しみやすいのではないかと思う。  少年の視点で描かれた一人称の文章であることも成功している。  ツヅキさんの小説の特徴は文章である。  丁寧でゆったりした中に、読者にも主人公たちと共に思考することを呼びかける奥深く、そして妥協を許さない強さを感じる文章は健在だ。先ほど記した通り、少年の一人称になったことで、読者が受け止めやすくなっている。  第一部を読んでから入るのが一番というものの、第二部から読み始めても問題なく面白く読めるし、読者は主人公の姿に共感と感動を覚えるのではないかと思う。  自分は、この小説を多くの人に読んで欲しいと思っている。  時間をかけて、作者や作品、小説の主人公と共に前に進んでいく読書を経験して欲しいと思う。  そして時間が許せば、第一部其の一、其の六だけでも後で読んでみてはいかがかと思っている。
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