ンバ(幽霊)

悪魔の正体
いきなり凄惨な殺人事件の渦中にある、主人公・知宏。 報道では、妻と1歳の娘、及び複数の関係者を殺害した彼を称して、悪魔。 読み始めた当初、冤罪事件を当事者の目線から紐解いていく構成なのかと思っていた。 が、当作品はそんな生易しいものではなかった。 淡々とした日常描写の中に、非日常を滲ませる。 M.T.Pを拝読した際も感じだが、この著者様はその境界をぼかすのが、めちゃくちゃ上手い。 今回は前回よりも更に、日常と非日常の絶対値の開きが大きい。そのギャップが非常に恐ろしく、悍ましいのである。 基本的に知宏と読者の視点は共有されているが、時折、その認識の隔たりに驚かされる事がある。 その妻の秋穂にも、はっきりとズレを感じる時があり、二人の娘の千恵に至ってはもう、明らかな非日常の申し子だ。 読んでいるうちに主客転倒して、非日常が日常になってゆくが、それは彼らの日常を我々が非日常と見做す約束が発生したからなのか否か。 マスコミは知宏をつかまえて悪魔と表現するが、悪魔とは本来一体誰のことなのか。 わからなくなってきてしまう。 そもそも、明確な答えは初めから無かったのではないか。 あるのは、悪意である。 そして、無自覚の悪意は最も怖い。 それが多くの人に害を為した時、はじめて悪魔と呼ばれるのだろう。 無自覚の悪意で人を害してはいないか、今一度自戒せねばならない。 そう思うことにしました。 衝撃作でした。読ませていただき、ありがとうございましたm(._.)m

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