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夫婦げんかは黒い犬も食わない
NoName
2019/8/24 11:16
上質な推理小説は犯人やトリックが明らかになっても何度でも読めるのと似た感覚
サンタさんが妹をクリスマスプレゼントとしてくれたお話が話題になった。玉子焼きが好物だという設定があり、物語の途中にはまったく登場しないが、最後の大団円になって、母親が「玉子焼き焼いたわよ」と言う。作者は、この伏線を回収するために、ネット上で何か月もかけて小説を書いてきたのではないか。登場人物のたわいのない会話、夏の思い出、兄妹が「好き」の感情に傾いていく描写、基本的に会話だけで進んできた物語すべてが前フリ! 「夫婦喧嘩は黒い犬も食わない」の読後感も、似ていた。 作者自身は、芥川龍之介「藪の中」に構想を得た、とツイートしているが、芥川の技法は登場人物の証言が食い違って真相はまさに「藪の中」だった。一方、この作品では、証言者の証言のたびに悪者が悪者でなくなっていく。 導入からは、ある年齢以上のネット民なら誰でも知っている、趣味の鉄道模型を妻に全部捨てられた物語を思い出す。つづく上司と部下のヲタク会話で、売られたことの言いようのないつらさが募る。ところが、他の証言者がでてくるなかで、どうもそうばかりともいえない印象になっていく。夫婦の会話なのに一方通行。じっさいに携帯を見ながらの生返事。売られるのはおかしいけど、やはり何らかの原因があったのだ。 このあたり、読者にも思い当たる節がある。引き込まれる。息子カップル(まだ付き合っていないけど)の会話も、甘酸っぱくてほほえましい。 でも、これらは前フリ。作者は最大のどんでん返しを仕込んでいた。それまで悪者かどうかを判断していた根拠そのものが崩れていく。物語の最初から、どちらが悪者なのかを改めて確認する作業が始まる。 だからこそ、なんで現地に行って確認しなかったのか。まあ、中学生だったか、「バトルフォーミュラ」を捨てられても大泣きするしかなかったエピソードがあるので、その性格を引きづっているのかもしれない。片づけられない性格も、たぶん昔は母親が、今では妻が片づけるから、ついてしまったのだろう。そう、自分では何もしない。これ、そのまま息子に遺伝しているわけだ。 もうひとつ、なんで仲良くなってしまう結末にしたのか。仲良くなる結末が悪いわけじゃない。それに至る伏線が用意されていない。結婚式の祝辞で披露されたレッド・ツェッペリンの来歴がそれだというには厳しすぎるし、においが「あきらめ」に変わっていたはずだから。
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白蔵 盈太(Nirone)
2019/8/24 21:50
最後までお楽しみ頂けたようで大変嬉しいです! ありがとうございます! 「全員がちょっとずつ悪くて、誰が悪いのかわからなくなる」という話を目指していたので、このような感想を頂けると本当に書いた甲斐があったなぁと喜びしかりです。 で、確かに最後は全く伏線を用意してなかったので、あまりに唐突で「なんでそうなるの!?」ってなるかもしれませんね。 結婚して10年以上経った夫婦なんて、どんなに大ゲンカしようが結局最後はこんなもんで、お互いちょっとずつ不満抱えながらも何だかんだ言って離れられないもんなんだよな……という自分の実感があって、そういう感覚からするとこの結末はもうごく自然なもので、これ以外は
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