倉橋@新作発表

脱帽しかない歴史小説‼︎
吉田稔麿は池田屋事件で非業の死を遂げた志士の一人である。 名のみ知られ、吉田松陰の高弟だったことや同時代の長州人からも敬意を持たれていたこと自体知られていない。 映画やテレビドラマでも、単なる池田屋事件の死者として「その他大勢」の扱いである。 この小説が吉田稔麿を主役に据えていることでまず感動してしまった。 作者は単なる歴史ファンではなく、歴史の本質を見ることが出来るのだろう。 久坂玄瑞と吉田稔麿の間で交わされる会話を読むだけでそれがうかがえる。 本当にこういう会話がなされたとしか思えない生き生きしたやりとりが、具体的なイメージを持って僕の前に現れた。 知らず知らず吉田の心中に入り込み、涙が浮かんでいた。 よくある歴史的事件の場面を自分流に解釈した作品ではない。 ある日の二人の会話と心理描写だけで、これほど幕末という時代とその時代に生きた人物が絶妙に描かれた小説はないと思う。 歴史小説の執筆は憧れるものの、こういう作品を読むと、ちょっと自信がなくなる。 だが、いい小説を読んだ後の心地よい敗北感だと思っている。
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