天野行隆

氷室冴子氏の後を継ぐ正統派作品
 第二回氷室冴子青春文学賞の大賞作品と聞いて、早速読み始めた。半分ほど流し見で読んで、「なぜこの作品が大賞なのだろう?」という疑問もあった。しかし、改めてじっくり読み進め、最後まで読み終えて間違えていたのは自分であったと主人公ちぐさのように猛省しなければならない羽目になった。それくらいこの作品は筆力に優れていて、比喩や表現の巧みさに心を奪われる。  中学生の男子が女物の下着をつけることに異議を唱えるということは誰しもが考えることであろうが、それはけして性癖だとかの問題、あるいはLGBTの問題ではなくオシャレだから。と言い切る晴彦の度胸の良さ。そして女っ気がなく、義理の弟に下着選びを手伝ってもらう主人公ちぐさ。家族構成も複雑で、お互いがお互いを支える。定義上で言えば他人同士の姉弟が悩み、傷つき、思春期の不安を鋭利に描きだしたことに関して言えば、本作はもっとも氷室冴子氏の後を継ぐ正統派作品を呼び戻したことになる。選考委員の目の肥えた批評には感動を覚える他はない。  近年、出版不況と騒がれ、本を買わない、読まない若年層が増えているのは非常に難儀なものだが、本作が書籍化されたなら、是非図書館はもちろんのこと、全ての中高生に送りたい一冊である。そう思わせるぐらいには出来が良かった。この作品が読書への新たなる入り口へと踏み出せる一歩となるのなら、これ以上のことはないだろう。  改めて、受賞おめでとうございます。第二の氷室冴子……といえば少し冗長かもしれないが、ここに新たなる小説家が誕生したことに心から祝福したい。
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天野さま このたびは丁寧な感想をいただきまことにありがとうございます。 天野さまのおっしゃるとおり、これは氷室冴子先生の名を冠した賞に応募するものである、ということを強く意識して書いた作品ですので、このようなご感想をいただき、とてもうれしく思います。 これからも普遍的な題材で新しい価値観の提示をしていければと思います。 ほんとうにありがとうございました。

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