わらべ

「おや、どうですか。買っていきませんか」 手渡された本に目を通すと面白そうな物語ばかりだった。 本を売ってきた人間はというと男のような女のような、その上年齢もよく分からない相手だ。 本も悪くないし売り手も面白そうな人間だ。買って損はないだろう。 「買うよ、おいくらだい」 「お任せします」 にこりと売り手が笑っている。なんだか狐のような、猫のような口をして、ロボットみたいで、犬のような目つきで笑っていた。 「あなたは彼らの人生の一部に値段をいくらつけるんですか?」 なんとなく気味が悪くて恐る恐る口を開く。 「本だろう?作り物の話だ」 「ええ、もちろん。物語ですよ」 手が随分と冷たかった。舌がだらりと長い。 「でもそれがどうして本物ではないと言えましょう」 本を手放して走って逃げた。 これもまた誰かに綴られる物語になるんだろうか。 っていう話。
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