【コメント】色々と考えさせられることの多い良作でした

鬼の風聞

色々と考えさせられることの多い良作でした

猛威を振るう疫病の前に為す術もなく斃れ、流布される鬼の風聞に、いたずらにおののく民の姿は、あたかも現在のコロナ禍を見るようです。しかし、実際に彼らに手を差し伸べていたのは、為政者たる貴族達ではなく、鬼の側でした。王朝文学などにより華やかなイメージのある貴族達は傲慢で、流行病さえも政争の具とし、利益を追い求め、鬼と呼ばれたまつろわぬ民たちは、それに対抗しようとします。多くの史料にも見える大江山の説話をベースにしているため、鬼達の最期は大体想像が出来てしまい読みながらも胸が痛むのですが、それでも決戦への道のりや、仲間の首級を奪い返そうとするくだりは、ドキドキさせられてしまう文章力です。素敵な物語をありがとうございました。