しのき美緒

声を必要としない理香が「声」を必要とした理由
お洒落で小粋な作風の池田さん、これもお洒落な短編なのだろうと読み始めると、軽快な筆致はそのままに2930文字に理香の28年が丁寧に刻み込まれていた。  弱みを別の方法で解決しようとする賢い女の子だった理香は、成長とともに父親を心配する娘へ変貌を遂げていく。その結果歴史に刻まれるような研究成果をあげ、父に感謝を「声」で述べる感動のラストシーンへとつながっていく。  ところで、この掌編では父親の気持ちがほとんど描かれていない。声を必要としていない(代替手段をたくさん持っている)理香がどうして「声」で父親に感謝を陳べたのか。文字から、態度から伝えることはもちろんできる、が、なぜ声なのか。  勝手に想像するのみであるが。障碍をもつ子どもをもった親は少なからず自分を責めるのではなかろうか。その障碍を子が克服していることを知らせるために、父親を自責の念から解放するために理香は敢えて声の研究を選んだのに違いない。 ああ、池田さんは人情を知り尽くしているなあ。 しのき 2020/08/27
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しのきさん とてもあたたかいご感想ありがとうございます。 この父娘の時と共に移りゆく関係について細部まで読み取って頂いており、作者としてとても嬉しいです。 私の作品に時間と心を割いて下さり本当にありがとうございました。
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