森山満穂

物語全体がまるで、ひとつの音楽のようで
読んでいる時、ひとつひとつの言葉に青々とした葉に降り注ぐ雨のようなピアノの静かな音色を感じました。 最初は瑞々しく綺麗なのにどこか憂いを含んだ静かな旋律。中盤は悲しみに嫉妬、負の感情に翻弄されて暗く重厚になっていく旋律。そして最後には、一筋の光から溢れ出る、柔らかくあたたかみのある旋律。 まるで彩音が託し、翠が引き継ぎ完成させた曲に寄り添うように物語が進んでいきます。読み進めるうちに、曲と物語が一体化して音楽の美しさ、輝き、そして痛みを抱えながら生きていくということ。いろんなことを教えてくれる素晴らしい作品だったと思います。 特にクライマックスの、翠が完成した曲を─自分の音楽を弾いているシーン。 146ページ目。そこに全てがありました。そこにある言葉の数々が心に響いて、今も私の耳の奥で音を奏でています。 亡くなった人が見ることが出来なかった世界を引き継いで、生きていくこと──それが曲の続きを作ることと繋がった時、思わず涙が出そうになりました。 本当に、とても素晴らしかったです。この作品がもっと多くの方の目に触れてほしいと心から願います。素敵な作品をありがとうございました。
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