水谷遥

ストレートに感動しました
 まず「ジェイ」というキャラクターが非常に魅力的です。その魅力が「性格の作り方」です。  本作の核となる主題に「母と子の愛」があります。  この母親がとても強力で、息子であるジェイ、その父を全身全霊で愛しています。これにもしっかりと理由があり、「父母が望まれない結婚だった」という強い枷が掛かっていて、だからこその過剰な愛が描かれています。また、この母を失ったジェイが如何に孤独に苛まれているのか、また「なぜ」コミュニケーションが苦手なのかも、この強烈な背景で認識できます。  ジェイの性格が年齢に不釣り合いなほど幼いのですが、この確固たる根拠を「母親」を書く事で成立させている点が、素晴らしいです。   そして、恋人の蓮に「母親」と同じ役割が与えられ、上司として、年上の恋人として、幼いジェイを全力で守り抜き、成長も促します。  この二人のバトンリレーによって、物語にとって最も重要な「主人公の成長」を描いています。  オーソドックスですが、非常に強力な構成です。  母と恋人が同じ役割を持っているので、読み手には伝わりやすく、視点がブレません。視点がブレないので、強固な舞台でキャラクター達が悠然と動きます。だからこそ、キャラクターがしっかり立ち、キャラクターが立つから、余計なストーリーなんか不要になります。  余計なものが無いから、ストレートに言葉が入ってきて、読者を共感させます。  コメントにも多数「いっぱい蓮に甘えて」とありましたが、私も同じように感じました。  こうした共感を蓄積させたところで、最後に苦難を乗り越えるカタルシスが待っていて、大いに感動させられました。  シリーズ物の一作目としても素晴らしい出来ですが、本作単体で読んでも十分に感動できるラブロマンスであり、それ以上に「この作者が何たるか」を知らしめる屈強な基盤を見た読後感があり、単なる感動では収まらない巨大な何かに出会った感覚がありました。
3件

この投稿に対するコメントはありません