有月 晃

生々しい密度と極度の内向性で綴られた、異彩を放つ一冊
 あくまで現時点において、と最初に断りを置きつつ……  著者の豊富な作品群の中で「最も心を刺してくる作品は?」と問われれば、私は間違いなくこの「ひとりむすめ」を挙げる。  再生の物語だとか、自己解放だとか、そういった謳い文句を帯に纏う本は少なくない。が、ことWeb小説に限ると、どうだろう。まして、その謳い文句に内容が伴っている作品となると……ちょっとタイトルを挙げるのが難しいかも知れない。  しかしながら。この作品は紛うことなく、そんな一冊です。  当作品に目を通して、まず感じたのは「密度」。  おそらく、著者自身がこれまでの人生で経験してきたであろう事象の数々が、登場人物や場面、出来事に託されて読者に次々と提示される。正直言うと、初読時にはその生々しい密度に当てられ、感想も表さないまま本を閉じてしまった。  それくらい、当作品の密度は突出して迫ってくる。この意味において多分に私小説的だし、著者がこの作品を純文学にカテゴライズしたのも頷ける。  また、もう一つの特徴を挙げるとしたら、それはいつも読者を楽しませることを忘れない著者が、この作品に限って示した「極度の内向性」かも知れない。  あくまでこの物語の機能は著者自身にとっての追体験性に在って、読者はまるで意識の外に置かれている。著者がこの物語を綴った目的は、それこそ生まれ変わるか、それに近い過程を経た自身を振り返る。ただそれだけにあったのでは……と知った風に勘繰ってしまいそうになる。  この疎外感(疎外されているにも関わらず、物語への深い没入感は同時に実現されている)も、上述の私小説的という印象を一層深める。  さて、長々と書いたけれど、要するに「異彩を放つ一冊」なんだと思う。  それはポップで手に取りやすい印象の著者の作品群の中でもそうだし、この物語をそっと内包する小説投稿サイトという仮想本棚のにおいても同様。  そう、そこ。その棚です。  著者お得意の長編ファンタジーから入った読者さん。普段は手を伸ばさないその背表紙に、今日はあえて指を掛けてみましょうか。  この作品を読み終えてから著者の他作品に視線を戻すと、また違った側面が浮かんできますよ……
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レビューありがとうございます。読了ツイートでも、ずっと感想やまとめを残してくださってましたが、こちらにまで恐れ入ります。 この作品がここまで高密度で、ラストまで崩れることなく不穏さやシリアスさを維持することができたのは、一つの作者なりの工夫がありました。実は、並行して、いつも以上にポップなノリの異世界恋愛モノの長編を同時連載で書いてたのです。 いつも書くことの中でしていた私なりの発散は、そのもう一つの作品に任せて、こちらは別の要素を表現すべく、何度も歯を食いしばり泣きながら真剣に取り組みました。 結果的に、もう一つの作品はこちらの『ひとりむすめ』にある種飲み込まれたか殺されて、エタってしまっ
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真響さん、こんにちは。 これまで読ませてもらった作品と全くテイストが違ったので驚きましたが、そんな製作秘話があったんですね。なるほど。機会あったら真似させてもらおうかな。 ホントに様々な要素が盛り込まれているので、二回も拝読しながらも咀嚼できた感触は正直ありません。人の内面を推し量ろうという行為自体がおこがましくて、それでも寄り添っていかないといけないんだろうな……みたいな印象です。 あ、余談ですけど終盤付近の水族館は、きっと私も知ってる場所で、場面を具体的に思い浮かべながら楽しませてもらいました。 ちょっと他に類を見ない、良い作品でした。またこういう作品も機会あったら、お待ちしてます
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