小池 海

青春は波のように──王道を行く小学生の青春ストーリー(その1)
「青春小説」と言えば「挫折と成長」「出会いと変化」と、monokaki編集部のコラムでも書かれてあったが、まさにその王道を行く小学生の青春ストーリー。 ゲーム以外に打ち込むこともなく、面倒くさいことから逃げようとする主人公「馨」。 無理やり放りこまれた少年剣道団の同級生たちとの出会いと通じ、屈辱、悔しさ、情熱、自信、達成感、絆……といった感情を抱き、少年として成長していく。 自分を、他人を、周りを変えていく。 剣道に少しでも足を踏み入れた者なら、1ページ・1行目から光景が浮かんでくるだろう。 剣道を知らない者でも、読み勧めていくうちにだんだんと目に浮かんでくるだろう。 すり足で感じ、脚を駆け上がってくる床の冷たさ。 館内に響き渡る雄叫び。鍔迫り合いで鳴る竹刀。踏み込む足が大地を叩く重音。 紺色の面から沸き立つ湯気。面ごしに見える相手の表情。 小手を突き抜けてくる竹刀の痛さ。面に叩き入れたときの爽快感。 躍動感のある細部の描写と小学生の真っ直ぐだけれども揺れ動く心の描写が、読者をいつの間にか物語の中にぐいと引き入れ、すうっと溶け込ませていく。 この物語を著者は音楽の進行を意識して書き上げたと記されているが、後半のいわゆるサビの部分から、ページを1ページ、1ページと進めるごとに、読者の胸は階段を駆け上がるように熱くなる。 著者の狙い通り、大サビを迎える場面では自分の胸の鼓動が激しくなっているのを感じた。 1時間ちょっとであっという間に読んでしまった「跳ぶネズミ」は、著者の想いと狙いを丹念に練り上げた、非常に完成度の高い作品だ。 日々に疲れ少年時代の青春を思い出し酔いしれたいと思っている大人や、何もない平凡が続き毎日に面白みがないと感じている少年にとっては、読んで損はないし、むしろ読んだほうがいいと断言できる作品だと思う。 (その2はネタバレあるので注意)
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