小池 海

青春は波のように──王道を行く小学生の青春ストーリー(その2・ネタバレあり!)
ところで、なぜ著者は「勝利」を与えなかったのか。 首の銀メダルは、頑張ったとしてもうまくいかない、卑怯なヤツが制するという現実を映し出すように、空気を読まずに光っている気がした。 別のバスケを題材にした作品「5HOOPS」でも、著者は主人公たちに「勝利」を与えていない。 登場人物が苦難を乗り越えた先に勝利を手にするのが、思いどおりにいかない日々を生きる人々に成功の体験と未来への期待をもたらすのであり、それが物語の役割と思う私にとって、「勝利」のない結末に少し消化不良を覚えた。 けれど、冒頭の「青春小説」とは何かに立ち返り考えてみると、著者の意図はふたつの面から「青春」というテーマの本質を捉えているのではないかと思った。 1つ目に、「目に見える勝利」は「青春」の必須条件ではないこと。 結果としての「勝利」は成長を端的に表すシンボルではあるが、成長はそういった単純な「勝利」に還元されるものではない。 馨は神宮小剣道団の仲間と出会うことで、悔しいこと、打ち込むこと、達成することといった、これまでの生活では抱くことのなかった感情を得た。 もうひとりの主人公である陣も、出会いを通じ、家族や同級生から孤独だった世界に、仲間を得た(ちなみに、クライマックスに陣視点を持ってきたの流れには鳥肌がたった。)。小暮も、京子も、そうだ。 それぞれが出会いを通じ各々の階段を登りはじめたことこそ、成長の証であり「勝利」だと言えよう。 2つ目として、仲間たちとの「終わり」のある物語ではなく、「続いていく」物語であること。  準優勝に終わったときに発した「楽しみだ」という馨の言葉。 物語の最後、神宮小剣道団の以前とは少し変わった日常。 青春の中で「勝利」を与えないワンシーンとしての切り取り方が、この物語に「青春の1ページ」としての日常を与えるとともに、物語の外で続いていくであろう神宮小剣道団の「挫折と成長」「出会いと変化」を予感させる余韻を残す。 馨は、陣や京子のように強くなれるだろうか。 陣は、自分自身を克服できるだろうか。  青春の波は、彼ら彼女らに今後も大きく、何度も「揺らぎ」を起こすだろう。 この「揺らぎ」こそ、「青春」なんだと思う。  胸を熱くさせる小説を多く書かれていますが、今回も期待通り、いや期待以上の作品を読ませてくれた山城さん、ほんとにありがとう。
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いやいや、いやいやいや! レビューで鳥肌立ったの初めてです。 小池さん、ありがとうございます。 そう考察していただけると嬉しいです。 人によって感じ方はそれぞれあって良くて、わたしは小池さんと同じく続いていってほしいという願いを込めました。
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感情を揺さぶられる作品を読むと、感想が止まりません(笑) 文章は読み手の数だけ解釈も感じ方もあるとなあと、私も思います。彼ら彼女らの歩む道が素敵でなものであることを、願ってやみません。 上にも書きましたが、陣視点になった瞬間私の方こそ鳥肌が立ちました。そうくるかぁ~って。対立していた者が自分自身との葛藤とを乗り越え協力するさま、痺れました!!! ほんと、素晴らしい作品ありがとうございました~。
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