津蔵坂あけび

善意の牢獄
兄の一人称で語られながら、そのどこか家族を一人の「個」を持った人間として扱いきれていない歪さが、心の根っこにあるのが感じられました。 ともすれば、ここで描かれている家族は、「個」を省く・蔑ろにすることで、他人と家族を分けているのではないか。そう思えました。 語られるのは、ひたすら善意で塗り潰された地獄で、妹の窮屈さが伝わってきましたが。なんというか、どこかで兄を責めきれない自分もいます。ひょっとして、他人のことを詮索し、誰かの領域に入り込んだとき、一瞬でもこの物語の「兄」に自分はなってしまうのではないか。そんな危うさを胸に呼び起させるような、説得力がありました。 面白かったです。ありがとうございます。
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