逆木サカ

繊細で緻密な文体で描かれる、奇妙で不気味ながらも儚い美しさ
 舞台が緻密に設定され、実際には体験し得ないその世界観への導入の階段となっている点が素晴らしかった。この世のどこかに存在しているのではと思わせる程の説得力とリアリティが、機械を思わせるような整った文体で書かれている。  自らが作り出した機械人形に自己投影してしまう技師など、人間が憧れのアイドルなどにそうするのと同じように偶像というものを作り上げそれを崇拝するのと同じメカニズムであることを考えさせられる。そこには、自分の思い通りになる手中に何者かを収めておきたいという人間のエゴや所有欲が、垣間見えるリアリティとして顔を覗かせる。 そして機械により生み出される、人間を完全に模してしまった機械人形。ここがこの小説の最たる面白さではないかと感じた。アンドロイドと人間の関係というものはよく描かれるが、その大半は「人間によって生み出されたアンドロイド」との関係である。ところがこの物語ではなんと「アンドロイドによって生み出される人間」という反転された関係が示される。  また、面白いのが人間は自分で作った人形に傷をつけることによって人形を偶像たらしめるが、人形は無傷によって人間を偶像たらしめるのである。この素晴らしい対比と、反転された関係こそがこの小説の最大の魅力だと感じた。  さらに、この少女の人形は亡くなった技師を体内に収める。これは人形の持つ所有欲やエゴとしての表現に留まらず、「子孫を残す機能を与えられなかったが故の、母体への憧憬」ではないか。この点を考えるとこのロボットが「少女」という設定が存分に生かされていると思える。  これらの点でアンドロイドと人間といういわばありふれたテーマで描かれたこの特異な物語は素晴らしいと感じた。単純にストーリーとしても刺激的で、近未来的かつ退廃的で面白い。「冷たいあの人」というコンテストへの投稿ということだが、この作品が何かしらの賞を取れたら良いなと思った。
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