わらべ

私の父は美しい人だった。 垂れ目がちの瞳は透き通るような色をしていて、線が細くて華奢で、猫が鳴くような声を出す。 にこりと微笑めば誰だって簡単に魅了できるような恵まれた容姿だった。 かたや娘の私は癖っ毛でずんぐりむっくりの体型、お世辞にも美しい父と似てるとは言えない。 母の姿はなかったが、それを尋ねることはしなかった。父が語らないのであれば聞かないほうがいいと思ったのだ。 父と私の仲は良くも悪くも普通だった。 あまり可愛がられた記憶もないが、男手ひとつで何不自由なく育てられたところを見ると愛情は確かにあるのだろう。 父は診療所の医者だった。 患者と仲睦まじく話すところを見ると、彼が人格者であり商売は上手くいってるということが分かった。 父の跡を継ぐほどの頭の良さは私にはないが、彼に恥じない娘でありたいと思う。 ある晩、物音がした。 気にせずに眠りこけていれば良かったものの、目を覚ましてしまった。 まだ灯りのついてる部屋に父がいた。 あたりは血まみれでぼんやりと彼は突っ立っていた。 私が何が起きたかもわからずに声も上げられないでいると彼は近づいてきた。 にこりと微笑んで私のほおを撫でる。 「俺は君のお母さんが好きだったんだよ」 まるで夢の中みたいな口ぶりで彼がそう言ってた。
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