上川ゆり

海と恋
美しい南国の夜の海を、思い思いの形で揺蕩う二人が出会う。 そこから始まる、僅かな日々の物語。 マレーシアのリゾート地で気ままにアルバイトをしている櫂。 そのホテルに一人で訪れたのは、何か想いを秘めた男、冬慈。 冒頭の出会いのシーンは、どこかおとぎ話のようで、ロマンティックさすら感じます。 冬慈に惹かれるものを感じた櫂は、どうにか距離を縮めようと手を尽くすのですが、冬慈の心は日本に残して来た恋人に残っていて……。 近付いたり、遠ざかったりする二人の距離がとてももどかしく、唇を噛みながら読ませて頂きました。 尾月さんの作品は多岐に渡っていますが、海といえば【真冬の海底で〜】を思い出します。 そちらも海中の描写がとても美しく、海水浴程度しか経験のない私にも、その冷たさや恐ろしさ、深さを感じさせてくれました。 今回は南国の海。打って変わって、包み込むような温かさと開放感が素晴らしく、タイトル通りの「ナイトダイブ」を満喫させてくれます。 尾月さんが描く海中は静寂の音が聞こえるようで、海水に抱かれる音のない世界が眼前にリアルに展開されるのが印象的です。 後半からラストにかけて、二人の想いがとても苦くて苦しくて、息が詰まる思いで更新を追いました。 ラストシーンでは、あらゆる感情が入り混じって……私は未だに整理出来ておらず、一言では言い表せません。 これも、そこまでの二人の感情の揺れ動きが、丁寧に描かれているからでしょう。 実際に恋をした時の気持ちというのは「嬉しい!楽しい!大好き!」だけではありません。恋心には、もっとたくさんの感情が複雑に絡み合っていて、単純に一言で語れるものではないのです。 海の中のように、煌めく光も、鮮やかな魚もいれば、呼吸を止める水も、体を圧迫する水圧もある。 それでも、海は、そして恋は素晴らしいものだ、と思わせてくれた作品でした。 尾月さん、おつかれさまでした! 復帰作をゆっくりお待ちしております😊
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