小松菜 雅楽

呪いなんて撒き散らしてなんぼ。生き続ければそれでいいんだ
 保健体育のテストで堂々と男に子宮があると書いて、両親はおろか学校中から笑い物にされた三十路手前DT男に生○など微塵も理解できるはずもないが、無い頭を捻り出して『○理とは何ですか?』の質問に答えるのであれば、おそらく必要悪な呪いと答えるだろう。   一生物における一代イベント、出産のためとはいえ、たかが一匹子孫を遺すのに十ヶ月近く、いや数十年に渡り長く険しい心身の激痛に耐え続けるのだ。これを呪いと言わずに何と呼ぼうか。   おまけにこの呪いはたちが悪く、同性であっても程度に差があるため理解され辛く、昨今の性教育ムーブメントにより、にわかな知識を持って要らぬ親切心で近寄る輩もいるのだから手に負えない。人類史上最悪な呪詛だ。  だというのに、何故か我々人間にとって避妊手術という手段は犬猫と違ってあまりにマイナーな選択である。低用量ピルという対処法が医学的に用意されてはいるが、様々な事情とやら何やらで普及する兆しは一向に見えない…気がする。  ここまで苦しい想いをしているのに、何故改善される見込みがないのか? それはもう人類がこの呪いを必要悪として根深く受け入れてしまっているからだ、と私は思う。  今これを書いている時でさえ、内から蝕む茨の呪いに縛られる者達も、そうでない者達も、耐えようも無い不安から誰かを呪い蔑み、私は正常だと嘘ぶき、自他を傷付け、悦に浸っているのだろう。   姿形が違うだけで、皆等しく同じ穴のむじな。 そんな中、「生○だから」という免罪符が用意されているというのがどれだけの救いになるか、生理の痛みすら感じることができない私は羨ましくも思うのだ。その痛みを経験したくはないという身勝手さを盾にして。  呪いは呪いのままで良いのだ。  良いではないか。どれだけ大切な人だろうと所詮は他人だ。いざとなれば必要悪のせいにしてしまえばいい。  納得いかないことがあれば、存分にぶちまけてやれば良いのだ。   苦痛に押し潰され、命さえ絶たなければそれで良いのだ。    ヒカリは結末の通りだが、トモミも裏ではヒカリ以上の猛毒を撒き散らしているのかもしれない。  それはもはや消えて然るべき害悪なのかもしれない。   でも。それでも彼女達には元来その身に宿る気、元気な姿で生き永らえて欲しい。  私はそう、切に願う。
1件・1件
小松菜 雅楽 様 まずは、こんなに長文でご丁寧なレビューをありがとうございます。とても嬉しいです。 生理を「呪い」「必要悪」「免罪符」と表現された点に、目から鱗が落ちました。 自分では当たり前だと思っていたことが、立場を変えればそうではないこともたくさんあるのだと勉強になりました。 作者である私も、トモミはヒカリ以上の嘘つきで、打算的な人間なのではないかと感じています。 嘘をつくことでなんとか自分を保っている彼女らは、嘘をつけるだけ幸せなのかもしれませんね。 拙作を考察してくださって、ありがとうございました。
1件

/1ページ

1件