にね

だれもが持っている(と思う)故郷のとくべつな景色
『エッシャーの魔女』の姉妹編(?)ともいうべき本作。それぞれ独立したお話ですので、どちらか一方だけでもさしつかえないのですが、やっぱり両方読むと登場人物たちに奥行きが感じられて愛おしくなります。『エッシャーの魔女』も素敵なお話なので未読の方はぜひ! なるべくネタバレしないように感想を書こうと思います。 繊細に織り上げられた反物を手にとり、うっとり眺めるような気持ちで、本作を読みました。本作の縦糸は表現者の葛藤です。絵描きも文字書きも表現者。描くときも書くときも、人は孤独です。作中で亜美や千鶴がおのれを見つめ、自分の中からあふれてくるものをまっさらなキャンバスにのせていく気高さ、その苦しみ。同じく表現者のはしくれである私は、深く共感しながら読み進めました。 そして忘れてはいけないのが、本作が反物だとしたら、縦糸があれば横糸がある。本作の横糸は、漠然と表現するなら、故郷。故郷と言われたとき、まず思い浮かべる景色を、だれしもひとつは持っているのではないでしょうか。 私は基本、主人公になりきり、主人公の身に起こることを追体験するように読むのですが、たま〜に、読むことで自分の過去の諸々を克明に思い出すことがあります。そういう作品は今まで見てきたかぎり良作で、本作もそうでした。 帰りたくなったんです、故郷に。たとえば、山を下りしなに転んで出血して額を何針も縫ったこととか、駅前通りの名店で買い食いしたできたて熱々の大判焼きの素朴な味とか、年に一度の祭りで気がそぞろになる春の非日常感とか。行動範囲が広がるにつれて地元で遊ぶことはめったになくなり、きらきらした都会に憧れて、だんだん忘れ去られていった故郷の懐かしいにおい。それがふと、鼻先をかすめたようで、私はラストのあたりでたまらない気持ちになりました。 なぜならそこに、主人公にとっての故郷の景色が、色鮮やかに見えたから。 まとまらず、長文になってしまいました。すみません。どうかこの作品が、多くの人に届きますように。
1件・1件
素敵なご感想ありがとうございます。 にねさんの故郷は素敵なところですね。町と自然がとても近いところにあるのでしょうか。 私は大阪市内で育ちましたので、そういった町に憧れがあります。 長浜という町もそうでした。一昨年、昨年と二度ほど旅行で訪れ、魅力に取り憑かれてしまったのです。琵琶湖に沈む夕焼けの美しさと直ぐ側にある観光地の賑わい。都会とは違う空気感と時間の流れをとても愛おしく感じました。 そういった感覚を時々感じることがあります。その時に思い浮かべるのが、祖父母の家です。 昭和のモダンが全面に押し出された独特の雰囲気。都会の中にあっても、時空が歪んだように、別の時間が流れているような錯覚に陥
1件

/1ページ

1件