鷹取 はるな

なかなか語り出さない視線と、ほんの指先が雄弁にして語るもの。
(以下、エピソードタイトル『南条』を読んだ後で『瑞貴』を読み、再構成した感想となります) 私は以前、南条と瑞貴との情事を「つい、今さっきまで肉体的には最も密接な行為に勤しんでいたと思われます」と記しました。 一部訂正、追加致します。 ――勤しんでいたのは瑞貴だけでした。 今回私が読んだ箇所では、瑞貴が南条と体を繋げるために自分自身や南条へと施す下準備が淡々と語られています。 事細かに描写されればされる程、そこには瑞貴の心が伴っていないことを痛感させられました。 それもそのはずです。 この時点ではまだ、瑞貴は南条の体は求めていても心は欲していません。 体は触れ合ってしまいそうなほど狭いベッドで一緒に寝ているのにもかかわらず、南条と瑞貴との間に横たわる心の距離は隔たりは凄まじいばかりです。 何かの動作での延長線上、ついでなどではなく「髪を触る」という行為自体は意外としないものだ――。 南条が瑞貴の髪を撫でる場面では不意に、そのことを思い出しました。 本文中では「途端に、まるで何らかのスイッチが入ったかのように瑞貴が目を見開く」と描写されているこの場面。 読んでいて、実は「スイッチが入った」のは南条の方ではなかったのか?と私は考えさせられました。 無意識なりにとも瑞貴との心の距離を詰めたくて縮めたくて、南条はその髪に手を指先を伸ばしたのではないか? まさか、瑞貴が髪の毛を介して何かを伝えてきたわけではないのでしょう。 そこから始まる連想は南条のものであり、辿り着く先、結論も又彼自身のものです。 単なる教え子という存在だけではない、瑞貴への想い。 南条が自覚したそれを語る後半部分は、とてもゆったりとした場面ながらも溢れ出した想いが瑞貴へと怒涛の如くに向かうのを目の当たりにしたようでした。 そして、最後の南条の言葉。 それは瑞貴に対してだけではなく、自分自身への『宣言』でもあるかのように私の耳には高らかに響き渡りました。 ――瑞貴の心には確かに届いたのでしょうか?

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