北上さくら

幻想的な世界観とリアルな感情
まず初めに世界観の魅力に惹きつけられました。 崩落した東京、その下に広がる異世界、そしてそこに住む妖たち。 筆者さんの文章力によって、どこかノスタルジーを感じさせるアンダーランドの様子は鮮明に描かれています。 なんだか、アンダーランドとそこに暮らす妖たちなど、街の情景が目に浮かんでくるようでした。まるでアニメ映画を見ているような感覚になります。 そんなアンダーランドと妖を嫌悪する立花が、ツアーの中で町の住民に触れ合いながら、彼らの“人間らしさ”に触れて徐々に心が揺れていく様子、そして、それでも娘を失った過去を受け入れられない感情もまた丁寧に描かれていました。 個人的には茜さんの飄々としてミステリアスなキャラクターが好きでした。 それだけに、震災の生き残りという過去を抱えていることが衝撃です。 彼の「これは震災なんだ」という言葉が好きです。 震災の後、異世界人として妖たちから恨まれながら、同時に妖たちに助けられながら生きた、彼だから話せる言葉だと思います。 娘を失った過去を乗り越えらえない立花と、震災を生き抜いた過去を打ち明ける茜がお互いの思いを吐露するシーン。 幻想的な世界観を見せられたからこそ、そこで垣間見える登場人物の生々しい感情が際立っていました。

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