昭島瑛子

物書き目線のマニアックなレビュー
私は常日頃から「五感に訴える文章を書ける作家は強い」と考えています。 本作は1ページ目から読者の五感を刺激します。 涼楓の母が蛇口をひねったら勢いよく水が出てしまうシーン。 これだけで読者は勢いよく水が出る音や飛び散る飛沫の冷たさ、そしてこの母がややそそっかしい人物ではないかと想像できます。 「きつく結んでいたヘアゴムをほどく瞬間」も、バレエをやった経験がなくても男女問わず「体の一部を締め付けていたものからの解放感」は想像できるのではないでしょうか。 明日の本番に緊張して眠れない美瑠と電話で会話しながら時計が10時半、10時40分、11時と少しずつ進んでいく様子は、単に時間経過を表すだけではなく「早く寝ないといけない夜の寝られない焦り」と「友人と話しているうちにいつの間にか時間が過ぎていく」の両方を感じとれます。 落ち着いた涼楓とあがり症の美瑠の関係は、実は美瑠がバレエの主役であると明かされたとき立場が鮮やかに一転します。 華やかなバレエの世界に飛び立つ美瑠とバレエをやめる涼楓の関係は、美瑠が「先にトゥシューズを履き裁縫道具を持ち歩く涼楓に憧れていた」という告白でもう一度変化します。 憧れと嫉妬と諦め。さまざまな感情が入り混じる少女の揺れ動く繊細な感情を丁寧に描きつつ、ラストは切なさと明るさを感じさせて着地する。 決してわざとらしくない方法で読者の感情を静かに揺さぶる本作を読み終えたとき、私は「うーむ白福あずき、恐るべし!」と思ったのでした。
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素敵なレビューをありがとうございます。 こんなに読み込んでくださるというか、分析してくださる方がいらっしゃるなんて……、驚きと尊敬と喜びの大渋滞でございます。 作中で特にこだわったところをすべて拾い上げてくださった昭島さんこそ恐るべし!です。 改めまして、お読みいただいた上に素敵なレビューをありがとうございました。
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私が感動した部分はすべてあずきさんのこだわりポイントだったのですね! こだわって大成功だと思います! これがもし何も考えずに書かれていたのなら本当に恐るべしでした(笑) めちゃくちゃ上から目線発言で恐縮ですが、「十年後のプリマ」よりもさらにうまくなっていてすごいなと思いました。
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