倉橋

完成された作品をどう昇華させるか?
 この作品は何かのコンテストで最終選考まで残ったと紹介されている。  三十歳を前に今もアーティストの追っかけを続ける女性の日常を描いた作品であり、何気ない日常の合間に起きる同僚やアーティストの弟らしき男性との交友を描く。  私は完成された作品として読んだが、審査では終盤の弱さを否定されたそうである。  この作品は日常と微かな波紋を描き、それが彼女のこれから続く長い人生の中で、どのような意味を持つのか示唆することで締め括る。  通俗小説らしい劇的な展開で劇的な結末を迎えることを期待する作品ではない。アーティストの弟とは二度と会うこともないかもしれないが、それも人生の中では、主人公にとってひとつのドラマだったのだ。  落選したコンテストの審査員は、ひとりの平凡な人間のささやかな人生のドラマを求めてはいなかったのだとしか言いようがない。突然、アーティストが現れて求婚してからTL的な結末を求めていたのかもしれない。  だがこの小説を求めるコンテストがきっとあると私は信じている。  私に言えるのはそれだけだ。  最後になるが、読者の立場で申し上げるなら、終盤の叔母との会話をひとつのクライマックスにすることもひとつの工夫であった。この展開が悪いと指摘しているわけではないことを前提に申し上げる。完成作品では、叔母が父に頼まれてお見合いを勧めているような印象を持つ。  父親の 「娘が独身なのはお前のせいではないのか」 という言葉が行間より聞こえる。  もしかしたら他の切り口もあるのではないかとふと思った。
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倉橋様 貴重なお時間を拙作に割いて下さり、その上このようなレビューまで頂戴しまして胸がいっぱいです。 誠にありがとうございます!!! 〉主人公にとってひとつのドラマだった 仰って下さったこの1行で全て報われました。 それこそTL的な妄想を描きたかった訳ではなかったので、倉橋さんに汲んで下さったことが何よりの救いです。 また、 〉父親の〜行間より聞こえる。 こちらはご指摘下さり、はっとしました。後半の雑さが目立つ作品の原因は何だろう、と頭を悩ませる中で、焦点を定めて下さった気がします。 古今東西、様々な小説や書物に映画とお詳しい倉橋さんから、細やかに書評を頂けて光栄です。 お優しいゆえ、
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